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July 21, 2002

ねこ日本むかし話

あらゆる美徳は、仮装された悪徳である。(ラ・ロシュフコー)

やあ、僕ねこ山。

先日、桃太郎の家来のバイト募集という広告が西○本新聞の折込に
入っていたのを見たので早速行ってみたのだが、いささか気になる
ことがあったのでちょっとここにその顛末を書いて見ることにする。

その日は朝の8時までに来て欲しいという依頼だったので、僕は主
人の出勤のときに一緒に車に載せてもらって桃太郎の家を訪ねた。
桃太郎の家は福岡市中央区の小高い丘の上にある瀟洒なマンション
の4階にあった。桃太郎は意外にハイソな家庭の出身なのだ。僕は
気を利かせて8時より15分前にマンションに着いたが、桃太郎は
まだ寝ていたらしく、パジャマ姿で玄関に現れた。それでも桃太郎
はトレードマークの桃のはちまきはちゃんとつけていた。

部屋で出されたコーヒーを飲みながら新聞を読んでいると、僕より
10分ほど遅れて他のバイトがやってきた。僕の他にはサルとキジ
がそれぞれがス○ッフサービスから派遣されていた。僕らはとりあ
えず自己紹介をし、仕事のことについて情報を交換し合ったが、誰
も今日の仕事の内容は聞かされていなかった。それでもむかし話に
も出てくるくらい有名な桃太郎だからそんなに変な内容ではないだ
ろうと僕らは話し合った。

そんなことを話しているうちに、シャワーを浴び、桃太郎ルックに身
を包んだ桃太郎が現れ、仕事の説明を始めると言ったので僕らは彼の
方を向いて話を聞いた。桃太郎の仕事の内容を要約するとこうだ。同
じ福岡市中央区内に、鬼島君という桃太郎のライバルが住んでいるの
だが、この鬼島君は見てくれが悪くしかも乱暴そうなのでみんなから
嫌われているという。鬼島君は金持ちなのだが彼には黒い噂が付きま
とっているらしい。その鬼島君のうちを襲撃し、金品を奪うというの
がその仕事の内容だった。

ちょっとおかしいんじゃないかと僕は思ったのでその旨を桃太郎に言
った。桃太郎はちょっと意外だという顔をして僕に何がおかしいのか
と尋ねた。僕の論点はこうだ。いくら鬼島君の見てくれが悪くてみん
なから嫌われているといっても、彼にも基本的人権はある。しかもそ
れを理由として乱暴するというのは法治国家の趣旨に反しないか、し
かも彼がたとえ法律スレスレのところで得た利益だとしてもそれを力
ずくで奪い返すというのは強盗と同じではないかと僕は言った。彼の
見てくれと彼自身とは何の関係もないし、また彼の行動が法に反する
ようなものだったらしかるべき司法の裁きを受けさせるべきではない
のかと。

でもね、と桃太郎は言った。鬼島君は悪い奴なんだ、みんなからも嫌
われているし奴をこのままのさばらせておくと後々僕らに迷惑を及ぼ
すかもしれない。だから今、奴が今油断しているうちにやっつけるん
だ、と桃太郎はまくし立てた。奴はこの先絶対に改心しないし、訴え
たりしても報復されるんだと桃太郎は言った。鬼島君がみんなから嫌
われているのは事実だし、奴が痛い目にあってもそれはみんなが望む
ことなんだと。やれやれ、と僕は思った。それじゃまるで私刑じゃな
いか。そんなことをしていたらみんなが気に入らない奴はいい悪いに
関係なくやっつけられてしまう。いみじくも今の日本は法治社会であ
り、そのルールをみんなが守ること、また守るであろうという期待に
よってなりたっているはずだ。みんなが気に入らないのならその法律
を変える手続をまずすべきだし、いかなる理由があっても執行が立法
に優先すべきではない。そして法によって決められた執行官以外の者
がいくら民衆の支持を得ているとは言え権力を行使してはならないの
だ。

僕と桃太郎の意見はいつまでたっても平行線だったので、僕はその仕
事を辞退させてもらうことにした。桃太郎は一応来てくれたので手間
賃としてバイト代の半分を払うと言ってきびだんごを2本差し出した
が、僕は断って彼の家を出た。帰り際に彼がス○ッフサービスに電話
をしている声が聞こえた。はい、そうです。イヌをお願いします。と
にかく従順で、意見なんか言わないやつを手配してくださいと彼は言
っていた。

家に帰ってからも何か釈然としなかったので家の中を思い切り走り回
って、ふすまを2、3枚破いてからこたつの中にもぐって寝た。そし
て今ごろ桃太郎一味に襲撃を受けている鬼島君のことを気の毒に思い
ながら眠りについた。

投稿者 nekoyama : July 21, 2002 05:47 PM