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September 30, 2002
超ハードボイルド連載小説「探偵猫マイク」
我々の日常生活はほとんど意味のない些細な動作の集積で成立している。(「土の中の
彼女の小さな犬」:村上春樹)
第1話「ねこたちよ、永遠に」
はい、福岡市長公認の猫マイク事務所です。当事務所は迅速・正確が
モットーでして・・・はい、分かりました。失礼します。あー、忙し
い、忙しい!
はい、こちら猫マイク事務所。はい、えっ?となりのねこが?はあ、お
宅の庭に入ってきてイヌのえさを食べてしまって困る?それは、直接隣
のお宅に話しをされたらいかが・・・。えっ?しかも、これ見よがしに
う○こまでして行く?うーん、食べたら出すのが当たり前ですからねえ。
何?しかも、臭い?そりゃ、ねこのう○こは臭いですよ。半端じゃない
ですよ、あの臭さは。私も時々自分で気絶しそうになりますからね。ま
あ、とにかくそういった件は、探偵の出る幕じゃあないでしょう。お隣
に直接言ってください。それと、役所に言ってもそういった民事には手
を出してくれませんからね、念のため。はい、はい、それでは・・・。
はいはい、こちら猫マイク事務所。はい、はい、えっ?お宅の庭で巨大
なかぼちゃが?直径が70センチはある?重さは40キロ?ギネスブック
に載るかって?うーん、どうですかねえ。そういった件はマスコミに伝
えた方がいいんじゃないですか?西○本新聞社とかはそんな地域の情報
をよく取り上げてますよ。はい、はい、そうですね、はい、それじゃ。
はいはい、こちら猫マイク事務所。はい、えっ?プラスチックは燃える
ごみか、燃えないごみかって?うーん、自治体によって分別区分が違い
ますからねえ。お宅はどちらですか?えっ?北九州市?写真のフィルム
のケース?写真屋さんですか、お宅?えっ、F○?○Uって何ですか?
お宅のスタジオの名前?それは分別には関係ないですよ。商売やってら
っしゃるんなら、そこのごみは自治体では回収してもらえないはずです
よ。自治体が回収するのはあくまでも一般家庭からのごみで・・・。え
っ?ほとんどそのスタジオで寝泊りしてる?だから一般の住居と変わり
ないだろうって?うーん、私には判断できかねますねえ。市役所に聞い
てみてください。はい、そうです。はい、はい、それでは。
はいはい、こちら猫マイク事務所。はい、はい、何?夜中に?お宅の部
屋の中を?クロネコが通過する?お払いをしてもらえないかって?それ
は探偵の仕事じゃないですよ。ここは探偵事務所ですので。えっ?たま
に子猫を口にくわえている?荷物を持っているときもあるって?うーん、
困りましたねえ。それなら、岡野ねこ山氏の「ねこねこ人生相談」に相
談してみたらいかがです?前にも確かそんな相談があったような気がし
ますよ。ええっとねえ、あれは小倉の何とか言うフォトスタジオのホー
ムページがやってるはずですよ。ちょっとど忘れしましたけど。「ねこね
こ人生相談」で検索すれば引っかかるはずですよ。
はい、はい、それじゃ・・。
殺人と営利誘拐以外の仕事は全て引き受ける探偵猫マイク事務所。所長
猫マイクの一日は今日もこうやって暮れていく。
つづく
投稿者 nekoyama : 05:58 PM
September 21, 2002
遺伝子操作
自然はすべての動物を人間のために造った。(アリストテレス)
やあ、僕ねこ山。
先日、人間界ではクローン技術による妊娠に成功したというニュース
が報道され、遺伝子技術が花盛りの感がある。ここだけの話しだが動
物界でもこの遺伝子技術を用いた動物の福祉への取り組みがなされて
いる。これは我々国際ねこねこ財団が音頭をとり来月に福岡市で開催
される世界動物福祉学会において発表される。
有史以来、我々動物は人間のコンパニオンとしてある時は矢面に立っ
て、またあるときは影で人間を支えてきたのであるが昨今の近代文明
の発展に伴いそのリバウンドとして動物の福祉がおろそかにされると
いう様相を帯びている。このことに対する反省から上記学会が開催さ
れるに至ったのである。
さて、上記の遺伝子技術を使った動物の福祉への試みであるがある論
文は世界中のイカ達の中の有識者によって構成される社団法人世界イ
カイカ協会に所属するあるイカ博士によって提出され、その内容は人
間界はおろか動物界でもかなりの反響をよんでいる。
その論文のタイトルは「遺伝子技術を使った味の低下による人間の食
生活の改善」というものだ。我々動物とは違って霊長類たる人間は基
本的に雑食である。その食生活ゆえに人間は我々動物はおろか人間自
身をも危機に落としいれているという博士の鋭い洞察によってこの論
文は曹ゥれたのだ。
博士いわく、人間は雑食であるがゆえにおいしいと思うものはたとえ
それが人間の身体に悪いと思うものであっても食べてしまう。そのた
めに健康を害したり、はたまた病気になってしまったりという諸問題
を抱えることになった。ということは人間の体に悪い影響を与えると
思われるものを人間から遠ざけるシステム、具体的に言えば今まで人
間がおいしいと思って食べていた身体によくないものを遺伝子操作で
人間にとってまずいものに変えてしまおうというものだ。
例えば塩辛に代表されるイカやタコなどは過剰に取りすぎると健康を
害するという効果がありながら「おいしい」という理由だけで人間に
食べられている。もしこれらのものが「まずい」ということになれば
誰も食べるものはいなくなるだろうというのが博士の理論である。
逆に人間の健康にいいもの、例えば緑黄色野菜などはあまり「おいし
くない」という一般的な理由で人間、特に子供には敬遠されていると
いう事実がある。とすればこの野菜の味や食感をイカやタコのそれに
近づけるべくこれまた遺伝子操作をもって作り変えたら人間も好んで
これらの野菜を食するようになり動物はおろか人間の福祉にも貢献す
るのではないかという問題まで博士は投げかけている。
そしてこの論文は人間の食用に供する動物のほとんど全ての者から賛
同を得ているのだが、逆にカボチャ界やニンジン界からは植物の福祉
に反するとして反対の声も出ており、結論は出ていない。この問題は
動植物界を含むあらゆる当事者を巻き込んだ議論がなされてからでな
いと結論は容易には出なさそうだ。
ただ、一個人(猫)として僕の意見を言わせてもらうと、やはり僕
の大好物であるちくわが遺伝子改良によってセロリ味になったりか
まぼこがニンジン味になったりということはちょっと勘弁してほし
い。おいしいものは自然のままでおいしく食べたいというのが僕の
感想である。
投稿者 nekoyama : 05:57 PM
September 14, 2002
ねこねこ履歴書
観念は言語を離れて存在しない。(カール・マルクス)
ふりがな おかのねこやま
氏名 岡野 ねこ山
平成13年6月×日生
ふりがな ふくおかけんふくおかしじょうなんくたしまさんちょうめ
現住所 福岡県 福岡市 城南区 田島三丁目○×―×△
〒814−○△×○
電話 092−851−×△○×
年 月 経歴
平成13 7 福岡市にて書生
平成14 1 FU.に「ねこ山日記」連載開始
資格・免許
漢字検定2級
ねこねこ鑑定士(国家資格)
日本ねこ作家協会福岡県支部長
自分の長所 論理的思考と鋭い観察力
自分の短所 飽きっぽい
特技 社会論評、ねこパンチ
自己アピール 論理的な思考と歯に衣着せぬ物言いで現代社会の矛盾・欺瞞
を一刀両断いたします。
得意な分野 文学、政治経済、大衆文化論、クイズ
本人希望記入欄 月収ねこ缶10缶及びちくわ20本以上
自宅勤務、フレックスタイム制、取材・経費会社持ち
2002年4月○日現在
投稿者 nekoyama : 05:56 PM
September 07, 2002
超ハードボイルド短編連載小説−ネコルゴ13 第一話「猫たちの賛歌」
偉大な冒険とはたった一つ、自己の内部への冒険があるだけで、そしてこれに
は時間も空間も、行為すら問題にならないからである。(ヘンリー・ミラー:「南回帰線」)
Scene 1 悪の野望
−2002年5月某日・北九州市−
北九州市に本拠地を置く秘密結社がある。表向きはデザイン・スタ
ジオとして営業を行っているが、その実は写真撮影を通じて世界征
服を目論んでいる極悪非道な組織である。その名を○U.と言う。
そのF○.のスタジオの中では今日も世界征服の野望を胸に秘めた
社員達が今後の活動について入念な打ち合わせをおこなっていた。
Scene 2 密会
−内容省略−
Scene 3 その男、ネコルゴ
−同日夜・福岡市−
F○.代表K寺氏「わざわざお呼びたてしてすみません。」
ネコルゴ13「俺は握手はしない。もし俺のルールを守れないなら、
この話はなかったことにしてもらいたい。」
木○氏「いや、これは失礼しました。お許し頂けますか。」
「要件を聞こうか。」ネコルゴ13は吸っていたマタタビをピン−と
室見川に投げ捨てた。
K寺氏「実は、さる人物を始末してもらいたいのです。
「なに?」ネコルゴ13の耳がピクピクと動いた。
木○氏の助手が依頼内容を記した書類を入れたトランクを取ろうと
ネコルゴ13の背後を横切ろうとした。その時である。
「俺の背後に立つな!!」
と、ネコルゴ13のねこパンチが助手の首にとんだ。
「うぐっ!!」
助手は首を両手で押さえてその場に倒れ込んだ。
「どうも俺のルールを理解していないようだな。この話はなかったこ
とにしてもらいたい。」
「これは失礼を致しました。この役立たずの助手は始末しておきます
ので。ところでこれが今回の標的でございます。名前は岡野英克。表
向きは福岡市で会社員をしていますが、裏ではねこ達を使って人類を
動物の支配下に置こうとしている冷酷非道な男です。お引き受けいた
だけますか。」
「分かった。引き受けよう。俺のスイス銀行の夜間金庫にねこ大好き
フ○スキーを10袋とまぐろ缶を5缶を預けておいてくれ。」
「おおっ!!ミスター・デュークねこ山! お引き受けくださってあ
りがとうございます。ところで仕事の終了はどのように報告していた
だけるのですか?」
「俺は依頼人に2度も会うことをしない。」
「しかしそれでは・・」
「どうしても気に入らないのならこの話はなかったことにするぞ。」
「分かりました。では良い結果をお待ちしております。ところであ
なたは、どこかで・・。」そうK寺氏が言いかけたときすでにデュー
クねこ山ことネコルゴ13はその場を去っていた。
「ネコルゴ13・・彼はもしや・・。いや、そんなはずはない。彼は
もう10年も前に・・。」
デュークねこ山、通称ネコルゴ13。国籍、年齢、本名すべて不明。
しかし、その名を世界各国の諜報機関に知られている超一流のスナ
イパーねこである。彼の出生については純日本猫、シャム猫とアメ
リカン・ショートヘアーの混血またはただの雑種と諸説あるがどれ
も定かではない。唯一つ明らかなのは彼は依頼を受けた仕事は必ず
やり遂げるということである。
つづく
投稿者 nekoyama : 05:55 PM
September 01, 2002
連続短編小説「鰐−あるいは初夏の夜の風とともに」
お前は己の兄弟を引き渡した。必ず報いがあるぞ。(アルベール・カミュ:
「客」)
それは5月のある夕方のことだった。時計は6時を24分ほど回った
ころで初夏の風が心地よい時間だった。僕が2階の書斎で「ねこ山
日記」の執筆をしていると、突然2階のベランダから窓を開けて音も
なく鰐がやってきた。鰐というやつははるか古代からこのように突
然やってくるものなのだ。鰐は僕を横目でちらりと見たが、すぐに
関心なさそうに座布団の上にあぐらをかいて座り、ポケットからジ
タンを一本取り出して面倒くさそうに火をつけた。鰐は何も言わず
に僕に一本薦めたが、僕は健康上煙草を吸わない様にしているので
その申し出を丁重に断った。鰐は何も言わず、そのジタンをまた箱
の中にしまうと窓の方を向き、煙を2回吐き出した。
外からは散歩をする人達の声や、通り過ぎる車のエンジンの音、そ
してケンカするネコたちの鳴き声が聞こえてきては消え、僕と鰐が
言葉を交わすことなく小一時間が過ぎていた。外に目をやるともう
空は紫色になっていて、暗くなるまでにあと5分もかからないだろ
うと僕はぼんやり考えていた。「君は最近のグローバリズムについて
どう思う?」と鰐が突然僕に尋ねた。僕は次回の「ねこ山日記」の
原稿の内容について考えを巡らせていたので少しばかりふいをつか
れてしまった。鰐というやつはいつもこのように突然人(あるいは
猫)に問いを投げかけるのだ。僕は最初彼の質問の意図を図りかね
た。鰐とグローバリズムとの組み合わせはそれほど僕にとってはミ
スマッチな組合わせだったのだ。しかし、ここで彼の質問をもう一
度聞き返すことは彼の沽券にかかわると思ったので僕は適当に答え
ることにした。
「そうだね、社会が便利になるのはいいことだと思うけれど、その
反面そのシステムの恩恵を受けることのできない人(あるいは猫)が
いることも本当だし、一長一短あるんじゃないのかな。」と無難に答
えておいた。すると鰐は「ふん。」といい、煙草を消す仕草をしたの
で僕は慌てて1階に下りて主人が禁煙を始める去年まで使っていた
灰皿を1階から持ってきた。鰐は何も言わずに煙草をもみ消すとまた
ポケットからジタンを1本取り出すとマッチで火をつけた。そして一
口深く吸い込んで煙を長い時間かけて吐き出すとこう言った。「する
と君はグローバリズムには否定的なんだね。」僕は少し考えた。確か
に僕はグローバリズムを肯定しているわけではない。かと言って、
完全に否定しているかと言えばそうでもない。グローバリズムは言
わば少数の人(あるいは猫)の幸福のために多数の人(あるいは猫)
の幸福を少しばかり制限しようというシステムであり、またどのよ
うなシステムでも全ての人(あるいは猫)をハッピーにすることは
できない。全てのシステムは相対的なものなのだ。僕が漠然とそん
なことを考えていると鰐は、いらいらした様子で煙を2回吐き出し
た。僕は話題を変えようと、「コーヒーでも飲むかい?」と聞くと、
鰐は2本目のジタンをもみ消しながら「ああ。」と投げやりに言った。
僕用の小さなマグカップと鰐のための大きめのマグカップにコーヒ
ーを入れて2階の書斎に戻ると鰐は書棚に並べてある本の背表紙を
眺めていた。それらの本は僕が執筆用に近所の黒○書店で購入した
ものだ。「グローバリズムにしろ、他のシステムにしろ完璧なシス
テムがない以上、既存のシステムに改良を加えながらよりよい方向
に社会を持っていくと言う姿勢が大事なんじゃないのかな。」と僕は
鰐に言った。その答が果たして鰐の質問の真意に沿うものかどうか
僕には分からなかったが、何も答えないよりはましだろうと思った
のだ。「よりより社会ねえ。」と鰐は窓の外に目をやりながらつぶや
いた。鰐というやつははるか昔からこのような目で遠くを眺めてき
たのだ。「すると君は」と鰐が口を開いた。「すると君は観念的なト
ポフォリアが脱構築化されることによりデノテーションを実存させ
ると言いたいんだね。」と鰐が言った。僕にはよく分からなかった
が、「いや、それはポスト構造主義的なノマドをダブル・バインデ
ィングすることによってディスクールを複雑系化させると言う意味
だ。」と答えた。すると鰐は、安心したように「そうか、僕は君の著
作を読んで君は傲慢なやつだと思っていたがどうやらそうでもない
ようだな。僕は君を誤解していたようだ。」と言った。
僕は何が彼を安心させたのかよく分からなかったが、とりあえず彼
の機嫌がよくなってほっとした。そして僕と鰐は一言も会話を交わ
さずにコーヒーを飲み続けた。鰐が「邪魔して悪かったね。そろそ
ろ帰るよ。」と言って席を立ちかけた。そして彼は書棚のある本を見
つけるとその本を凝視した。「どうしたんだい?」と僕が尋ねると、
彼は一冊の本を書棚から取り出して「これは一体?」と僕に尋ねた。
彼が書棚から取り出したのは僕が頭を休める時に読もうと思って古
本屋で見つけたつ○義春の「ね○式」だった。「ああ、それは僕が暇
な時に読もうと思って買ったんだ。」と僕が言うと、彼の形相が見る
見る変わっていった。「なかなか面白いよ。貸してあげるから君も読
んでみるかい?」と僕が言うと、彼は「そら見ろ!やっぱり君は傲
慢なやつだ!」と言って持っていたマグカップを大きな音を立ててテ
―ブルに叩きつけた。「これ以上傲慢なやつと話すことなんかない!」
と鰐は言い残して来た時と同じように2階の窓から外に出て行った。
僕は一人(あるいは一匹)残されたまま、小さいマグカップに残っ
たコーヒーを飲み干し、鰐が出て行った窓から外を眺めてみた。も
う外は真っ暗で人々(あるいは猫)の声もしなくなっていた。そし
て時々入り込んでくる初夏の太陽の暖かさがまだ残った風を受けな
がら、僕は「ねこ山日記」の執筆に戻った。
つづく
投稿者 nekoyama : 05:54 PM