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November 07, 2002
ラジカルザサエさん3
幸福とは幸福を探すことである。(ルナ−ル)
やあ、僕ねこ山。
ス○ッフサービスの派遣で行っていた東京のイゾノ家から解放され
て早や三ヶ月が経とうとしている。ちょうど僕の契約が切れる頃に
隣のイザザカ先生宅のミケちゃんとともに失踪していたタマが帰っ
てきた。引継ぎのついでにタマとメールアドレスを交換したのでこ
ちらの近況を伝えたり、イゾノ家で起こっている騒動などを伝えて
もらったりしているが、相変わらずイゾノ家では内紛が絶えないら
しい。いや、内紛というよりはガツオに対する一方的な虐待がさら
にエスカレートしているらしいのだ。
僕がイゾノ家から帰る一週間前にガツオが警察に保護され、その際
ガツオが家で虐待を受けているらしいという容疑のもとにイゾノ家
の人員に対して取調べが行われた。そしてナビヘイが重要参考人と
して警察にしょっぴかれて行ったのだが、証拠不十分のため送検は
見送りとなった。タマのメールによれば、この一件が引き金となり、
ガツオへの虐待はさらに狡猾かつ巧妙なものになってきてるらしい。
しかし、その後にイゾノ家を揺るがすような事件が勃発したらしい
のである。そのタマから送られてきたメールに記されていた新たな
イゾノ家での事件は以下のとおりである。
その日も、イゾノ家は一見平和な一日だった。みんなが一日を終え、
居間の食卓で団欒をかわしていたが、そこにはガツオの姿はなかっ
た。ナビヘイが警察に尋問されたのはガツオが交番に駆け込み、家
庭内での虐待の洗いざらいを訴えたからだとナビヘイが勝手に勘違
いしてガツオに食事を与えないようにしていたのである。しかし、
それではガツオが飢え死にしてしまい、保護責任者遺棄罪に問われ
ると考えたイゾノ家の連中はかろうじて生きることができるぐらい
の食料をガツオに与えていた。
その日の食卓はすき焼きであった。孫という特権をフルに活かし、ナ
ビヘイに取り入って祖父の肉をたらふく騙し取ったダラちゃんはホッ
トプレートに残ったすき焼きの具を自分が食べ残したご飯にやおらぶ
っかけ、それを持って庭に出て行った。その庭には、タマ用のネコ小
屋およびガツオ用の半畳ばかりの小屋が並んで立っていた。ダラちゃ
んはタマ用のネコマンマおよびガツオ用のガツオマンマを二人(ある
いは一人と一匹)の小屋の前にそれぞれおくと、小屋の中で寝返りを
うったガツオに「ガツオ兄ちゃん、ごはんでしゅよ。」と言った。それ
に反応してガツオは「うう・・」と言ってダラちゃんの方を振り向い
た。「ほしくないでしゅか?」とダラちゃん。「ああ、食べるよ。」と
ガツオがそのガツオマンマに手を出そうとした瞬間である。「何か忘
れてないでしゅか?」とダラちゃんが言って、ガツオの手を右足で踏
みつけた。「あ、あ、ありがとうございます。」とガツオは消え入るよ
うな声で言った。「何でしゅか?聞こえないでしゅよ。」とダラちゃん。
ガツオはダラちゃんを睨みつけた。「その目は何でしゅか?おじいちゃ
んに言いつけるでしゅよ。」ガツオは歯を食いしばり、屈辱に耐えなが
ら、「ありがとうございます、いただきます。」とダラちゃんに言った。
「そうそう、それでいいんでしゅよ。」と言ってダラちゃんは縁側から
居間に帰っていった。
ダラちゃんはナビヘイに「お兄ちゃんにご飯をあげてきたでしゅ。」
と言った。「ダラちゃん、ガツオは2日に1回でいいんだよ。」と
ナビヘイ。「それじゃお兄ちゃんがかわいそうでしゅよ。」とダラちゃ
ん。「ダラちゃんは優しい子だねぇ。」とブネ。「まあ、ダラちゃん、
あなた、自分のご飯をガツオに分けてあげたの?」とザサエ。「ダラ
ちゃんは家族思いだもんねぇ。」とワガメ。「当然のことをしただけで
しゅよ。」「そうかそうか、ダラちゃんは本当にいい子だなぁ。どれ、
おじいちゃんがおこづかいをあげよう。」とナビヘイは財布から福沢
諭吉を取り出して、ダラちゃんに渡した。「わあーい、うれしいでし
ゅ!また、貯金するでしゅ!」とダラちゃん。無論、貯金するという
のは真っ赤なウソで、ダラちゃんは最近イグラちゃんとつるんで行き
はじめた競馬につぎ込むつもりだった。そんなことはつゆ知らずナビ
ヘイは「ほう、そうか、ダラちゃんは貯金をしてるのか。えらいぞ。
それならおじいちゃんも手伝ったあげよう。」ともう一枚万札をダラ
ちゃんにあげた。「まあ、よかったわね、ダラちゃん。これでおじい
ちゃんの誕生日プレゼントまであと少しね。」とザサエ。「あっ、それ
は言っちゃダメでしゅよ!」「あっ、ごめんねダラちゃん。つい口が
すべっちゃった。」とザサエ。そしてダラちゃんは「僕もう寝るでし
ゅ。」と言って自分の部屋にかけて行った。もちろんこれはナビヘイ
からさらに金を吸い取る演技であるが、孫煩悩のナビヘイはすっかり
だまされていた。そして、「これでダラちゃんにおもちゃでも買って
やってくれ。」と言って、マズオに万札を3枚渡したのである。「いい
んですかぁ、お父さん?」「ああ、あんなに祖父思いの孫を持ってわし
は幸せだ。」「ほんとね、これでイゾノ家の将来も安泰ね。」とブネが
相変わらずわけの分からないことを言ってみなアハハハハハハハと笑
い、この日もイゾノ家の一日は平和裡に暮れていった。庭にいるガツ
オを除いては。
次の日の朝、ガツオを除く一家の朝食が済んだあと、ダラちゃんは自
分の食べ残しのごはんに味噌汁をぶっかけると、それを持って庭に出
ていった。そして、みんなが朝の支度でせわしなく動き回っている隙
に、そのガツオマンマに向かってやおら「かぁーっ、ぺっ!」と痰を
吐いて、持っていた箸でぐちゃぐちゃと混ぜた。そして、ガツオが寝
ている小屋をガンガンと2回蹴ると、「ガツオ兄ちゃん、ごはんでしゅ
よ!」と言った。しかし、小屋からは返事がないばかりか物音一つし
ないのである。不審に思ってダラちゃんが小屋の中を覗き込むとその
背後に足音も立てずに忍び寄った人影がダラちゃんのボディに鋭いフ
ックを打ち込んだ。「うっ!」そう一言ダラちゃんはうめいて庭の芝の
上にどさりと倒れこんだ。
「ダラちゃーん、幼稚園に遅れるわよー。」とザサエの声が居間の方か
らしてザサエが縁側に出てきた。「まあ!ダラちゃん!どうしたの?!」
しかしダラちゃんは白目をむいて完全に気を失っていた。「あなたー!
お父さん!ダラちゃんが!!」そうザサエが叫ぶとナビヘイとマズオと
ワガメが出てきた。「ダラちゃん!どうしたんだ、一体!!」とナビヘ
イ。「分からないわ!あたしが庭に出てきた時はダラちゃんはすでに・・
・ 。」「一体どうしたんだろう。」とオロオロするばかりのマズオ。「ヒド
いわ!ダラちゃんをこんな目に会わせるなんて!あっ!見て!お兄ちゃ
んの小屋がもぬけのカラよ!!」とワガメ。そのとき、ナビヘイの目が
きらりと光った。「そうか・・・やつだな。」そしてナビヘイはくるりと
振り返った。「ガツオ!貴様か!!」そうナビヘイが叫ぶと家の勝手口
の方からふらりと人影が現れた。ガツオである。「ふふふ。そうさ、父さ
ん、僕だよ。」とガツオは不敵な笑みを浮かべた。「そろそろ貴様とは決着
をつけんといかんようだな。」とナビヘイ。「そうだね、父さん。僕は自由
になるんだ。」ナビヘイはサンダルを脱ぎ捨て、「ルールは分かっとるな、
ガツオ。わしを負かすことができればお前は自由だ。だが、わしに負ける
ことになればお前は一生イゾノ家の奴隷だ。」「ああ、分かってるさ、父さ
ん、僕は、このときをずっと待っていたんだ。」「みんな、手出しは無用だ
ぞ。」とナビヘイが言うと、ザサエとワガメとマズオはこくりとうなずい
た。そして、朝というのに既にギラギラと照りつける太陽は、微動だにし
ない2人、いや正確にいうと6人と1匹に容赦なく降り注いでいた。
「とりゃーあ!」そういって先にナビヘイが右回し蹴りを繰り出した。ガ
ツオはそれを間一髪でよけ、右フックをナビヘイの左わき腹に叩き込んだ。
「うぐっ!」ナビヘイは2歩あとずさった。「ふふふ。僕は昔の僕じゃない
のさ。」そう言うとガツオはナビヘイの間合いに素早く入り込み左ストレー
トを繰り出した。ナビヘイは後に倒れながらそのストレートを間一髪でよけ
た。そして、ガツオの足を払おうとガツオの懐に入り込んだ。そしてナビ
ヘイの足が、ガツオの足に当たる寸前にガツオの体が宙に舞った。「しまっ
た!」ナビヘイが左に転んでよけようとしたが、ガツオの方が0.2秒早か
った。ガツオはナビヘイの顔に真空跳び膝蹴りを命中させた。ぐしゃっ!
という鈍い音がしてナビヘイは庭の芝の上にうつぶせに倒れこんだ。そし
てナビヘイの顔の下からどす黒い血が流れてきた。ナビヘイはピクリとも
しなかった。そしてザサエとワガメとマズオも。ミーン、ミーンとセミの
泣き声だけがあたりに聞こえていた。
ガツオはくるりと3人の方を振り返った。「あ、あたしはお父さんにガツ
オを家に入れてやったらって言ったのよ。」とザサエ。「あたしもダラちゃ
んに脅されてしかたなく」とワガメ。「ガツオくぅーん、僕は許してくれ
るだろう?」とマズオ。ガツオはそんな3人をしばらく睥睨したあと、「
分かってるさ、みんなダラちゃんが悪いっていうんだろう?」と言った。
「僕はイゾノ家を出て行くよ。探さないでくれよ。」そう言ってガツオは
タマの小屋に近寄った。「さあ、タマ、行こうか。」「ニャーオ。」そう言
うと2人(あるいは1人と1匹)は庭から道路に出ると東の方向に歩き
だした。そのうしろ姿をイゾノ家の3人はいつまでも見送っていた。
第一部 完
投稿者 nekoyama : November 7, 2002 06:07 PM