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December 30, 2002

ねこねこ世界遺産

権力と富の偏在だけがモニュメントを作るのだ。四民平等のデモクラティック
な社会は後世に何も残さないことが誇りなのである。(五木寛之:「世界漂流」)

注:この文章は寺尾聡の声で読んでください。

福岡県福岡市の閑静な住宅街に佇む岡野邸、そこに一匹のねこがいる。白黒に赤の首輪を
つけたそのねこは「ねこ山」と呼ばれ、近所のねこ達の崇拝を集めている。このねここそ
生きている世界遺産として登録された唯一の存在である。

2001年6月、ノラとして生まれた「ねこ山」は旧ねこ山氏の紹介で福岡市在住の岡野氏
宅に書生し、執筆活動を始めた。そしてすぐにその類まれな批評眼と文才でいちやく脚光
を浴び、人間界におけるねこ族を代表する存在として文壇に自らのステータスを築くにい
たったのである。

こうして、「ねこ山」はねこでありながら人間界に影響を与えうるねこ達の一匹としてそ
の実績と価値を認められ2002年、世界遺産に登録された。

ねこ山は、岡野氏宅に書生すると間もなく、小倉にあるFU.というフォトスタジオのホ
ームページで「ねこ山日記@FU.」の連載を始める。この作品は連載当初から数々の作
家達の賞賛を浴び、今年、ねこでありながら史上初の芥○賞の候補に推薦された。惜しく
も他の作品に受賞を譲ったものの、その類まれな批評眼と文才は混迷を極める現代社会の
暗部に鋭ュメスを入れることのできる稀有な存在としてその地位を築くに至った。

ねこ山はその執筆活動において現代の人間社会が荒廃するに至ったシステムとしてのグロ
ーバリズムひいては近代の礎ともいうべき資本主義を糾弾している。そのため、ねこ山は
長高度資本主義の総本山であるア○リカ合衆国には入国できない身であるが、その作品の
卓越によってそのアメ○カにあるコ○ンビア大学から名誉博士号を授与された。このこと
により、知の巨人としてのねこ山の作品は世界中で50カ国語に翻訳され、聖書に次ぐベ
ストセラーとして今も販売部数は伸びている。

しかし、ねこ山は執筆活動を行う時以外は、家のふすまを破ったり、柱を爪で研いだりし
て、ごく普通のねこと変わりない活動を行っている。そのねことしての身近さと「ねこ山
日記」に表れる崇高な精神活動がねこ山の人気の秘密であり、いわばその存在自体が奇跡
であるとあるファンは言う。

我々がこの複雑で迷路のような現代社会でもがく中、ねこ山は一人(あるいは一匹)その
透徹した視線によって書かれた作品によって世界の暗闇に一筋の光を放ちつづけているの
である。


番組BGM
1. Unknown Language - Port of Notes
2. Weather Storm - Massive Attack
3. Brazileira - Gabriela Anders
4. レイプ数え唄 - 鳥肌実
5. I Lost My Guitar - Port of Notes
6. 満ち汐のロマンス - Ego Wrappin'
7. 人間の証明のテーマ - ジョー山中
8. Bonnie and Clyde - Gainsbourg et Bardeau
9. Serpent a Plume - Isabelle Antena
10. ただいまおかえり - スキップカウズ
11. 飛んでイスタンブール - 庄野真代

投稿者 nekoyama : 06:15 PM

December 03, 2002

超長編大河小説 リアリスティックザサエさん その2

いいかい、誠実な仕事なんてどこにもないんだ。誠実な呼吸や誠実な小便がど
こにもないようにさ。(村上春樹:「羊をめぐる冒険」)

やあ、僕ねこ山。
ガツオとタマがいなくなった後のイゾノ家では、堰を切ったように様々な事件が勃発し
ているらしい。これも、僕がタマからメールで報告を受けたイゾノ家で起きたある事件
である。

ナビヘイが、会社をリストラされて早や2週間が経とうとしていた。その日の朝もイゾ
ノ家はいつもと変わりなくみんなで食卓を囲んでいた。「お父さん、今日も職安に行く
んですか?」とブネ。「ああ、蓄えがなくならないうちに次の仕事を見つけんとな。し
かし、この歳で再就職はやっぱりきついな。」とナビヘイ。「まあ、でも気長に探してい
ればそのうちいい職が見つかりますよ。」とマズオ。「そうだな、前向きに考えんといか
んな。それはそうとダラちゃんはまだ寝てるのか?」とナビヘイがザサエに言った。「え
え、あの子ったら最近なんかおかしいのよ。やっぱり、お父さんのリストラが子供心に
ショックだったのかしら。」とザサエ。「そうか、ダラちゃんのためにも早めに次の職を
探さんといかんな。さて、わしはそろそろ出かけてくるかな。」「あ、お父さん、僕も一
緒に行きますよ。」とマズオも席を立った。

「なあ、マズオ君、やっぱりこの歳で再就職は無理なのかな。」と駅までの道すがらナビ
ヘイがマズオに聞いた。「そんなことはありませんよ。お父さんは経理のエキスパート
なんですから、それを全面に出していけば強いと思いますよ。」とマズオは言った。「そ
うか、そうだな。前向きに考えるようにしよう。」とナビヘイ。「そうですよ、お父さん。
じゃ、僕はちょっと他社との打ち合わせがありますので。」と言って改札を出たマズオは
ナビヘイとは反対方向行きの電車に乗った。

マズオは4つ目の駅で降りると北口にある喫茶店に入って行った。そして、窓際に座っ
ている20代前半の女性を目に留めると近づいていって言った。「やあ、待ったかい?」
「ううん、私も今着いたところよ。」とその女性がマズオを見上げて言った。「おなかす
いちゃったなあ、君も食べてないんだろう?何か食べなよ。」とマズオ。「私はうちで食
べて来たわ。」と女。「そうかい、じゃあ、失礼して僕だけモーニングをいただこうかな。」
と言ってマズオはウエイトレスに注文をした。そして、マズオの朝食が終わり、2人は
喫茶店の外に出て行った。外に出ると女はマズオに身体を寄せ、腕を絡めようとした。
「おいおい、知ってる人に見られたら困るよー。」とマズオ。「こんな朝から知ってる人
に会うわけないでしょ。」と女。「それもそうだな。」とマズオは大胆にも女の腰に手を
回して2人は街の中へ消えて行った。

そして4時間後、マズオと別れたその女はとあるホテルに入って行き、喫茶室で煙草を
吹かしている人物の前に座った。「こんなもんでいいのかしら?」「ああ、上出来だよ。」
とその坊主頭の人物は煙草の煙をふーっと吐き出した。「これが、今回の報酬だ。」とそ
の坊主頭の人物はテーブルの上に万札が入った封筒を差し出した。女はその封筒を手に
取り中身を確かめた。「いつもこんなにもらっていいのかしら?」「ああ、構わないさ。」
と坊主頭の男。「じゃあ、また次の仕事の時にはこちらから連絡するよ。」と坊主頭の男
は煙草を灰皿でもみ消し、「さあ、行こうか。」「ニャーオ。」と言ってそばにいた白ね
ことともに喫茶室を出ていった。

つづく

投稿者 nekoyama : 06:14 PM

December 02, 2002

探偵!ニャイト・スクープ

猫と女は呼ぶと逃げる。そして、呼ばない時こそやってくる。(メリメ)

このコーナーは、読者から寄せられた依頼に基づいて、岡野ねこ山探偵局長が部下の探偵
ねこたちを野に放ち、世のため人のため、公序良俗・安寧秩序を守るべく、この世のあら
ゆる事どもを徹底的に調査追求する娯楽コーナーである。

秘書:「さて、福岡市城南区に住む33歳の男性の方からのお便りです。現在、うちにはも
うすぐ1歳になるオスねこがおります。まだ、生後1ヶ月ぐらいの頃もらってきました。
最初は人間が怖かったらしく連れてきて1週間ぐらいは台所や部屋の家具の裏側に隠れた
りして大変奥ゆかしいねこでした。それからほぼ1年が経ち、今ではうちの中では王様然
とした振る舞いで人を人とも思っておらず、傍若無人を極め、我々人間を完璧になめてい
ます。自分の皿にえさが入ってないと、よこせと言って鳴き、う○こをした後は、早く片
付けろと言って鳴き、雨が降っていると、止ませろと言って鳴きます。この前もふすまを
爪でバリバリ破ったので頭を2発叩いてやったのですが、その30分後、私が風呂から上
がったところを狙って、仕返しに私の足に思い切り噛み付いてきました。このように非常
に執念深く、自分がやられたら必ずやり返すと心に決めているようで、私との勝負はいつ
も一進一退です。最近はいつにも増して凶暴になり、自分から私に勝負を挑んでくること
もしばしばです。おそらく小さい頃から一匹だけで飼っていたのがこのわがままな性格を
培ったのだと思いますが、今からでもこのねこを更生させる手段はないものでしょうか。」

局長:「うーん、ないでしょうねえ。」

当番組は、視聴者の皆様からのいろいろなご依頼を受け付けております。
依頼の宛先は、nekoyama@blue.ocn.ne.jp まで。

投稿者 nekoyama : 06:13 PM

December 01, 2002

超長編大河小説 リアリスティックザサエさん 第2部

東は東、西は西。両者は出会うことがない。(キップリング)

やあ、僕ねこ山。
僕がイゾノ家から解放され、タマとガツオがイゾノ家を出て行ってから早や2ヶ月が経
とうとしている。よくも悪くもイゾノ家はガツオという存在によってその微妙なバラン
スを保っていたのであるが、ガツオがいなくなったことにより、そのバランスが崩れ、
イゾノ家は次々と新たな問題が浮上してきているらしい。これは、時々現地調査に赴く
タマからの情報である。

その日はイゾノ家にとってターニングポイントとも言うべき重大な事件が起こった日で
あった。午後6時半、いつもより早めに帰宅したナビヘイはうつろな目で居間に入ると
帽子を脱ぐことも忘れて、ちゃぶ台の前に腰を下ろした。「あらあら、お父さん、今日は
早いですね。」とブネ。しかし、ナビヘイは返事をしない。というよりは、ブネの言葉が
聞こえていないようだった。「お父さん、どうなさったんですか?」とブネが少し高い声
で言うと、「あ、ああ、母さん、何でもないんだ。それよりも、酒はあるか?」とナビヘ
イ。
「もうお酒ですか?まず、着替えてらっしゃったら?」とブネが言うと、「うるさい!酒
と言ったら酒だ!同じことを何度も言わすな!」とナビヘイは怒鳴った。「え、ああ、分
かりました。」と動揺するブネ。

すると、奥の部屋からダラちゃんが出てきて、「おじいちゃん、お帰りなさいでしゅ。」
とわざとらしく甘えた口調でナビヘイの膝の上に乗ろうとすると、ナビヘイは「ええい!
どかんか!このガキめ!」とダラちゃんを手で撥ね退けた。「ウェーン、ウェーン、おじ
いちゃんがぶったでしゅ!」とダラはザサエのところに走って行った。「まあ、どうした
のダラちゃん?」とザサエ。「おじいちゃんが僕をぶったでしゅ!」とダラちゃん。「お
父さん、どうしてダラちゃんをぶったりしたの!」とザサエがナビヘイに詰め寄る。「す
まん、ダラちゃん、ザサエ、母さん・・・」ナビヘイは急に神妙になった。「実は、会社
がアメリカ資本に乗っ取られて、リストラされたんだ。」「ええっー!」と3人。「なんで
も、グローバリズムとかで株式を店頭公開したとたん、前前から目をつけていたアメリ
カの投資会社が、うちの株の過半数を買い占めて、株主総会で取締役を全てアメリカ人
に変えてしまったんだ。」ナビヘイは、涙を流していた。

「そして、今日、新代表取締役というアメリカ人がやってきて、わしの肩を叩いてこう
いったんだ。『へイ、ミスターイゾーノ、アナタハ明日カラ来ナクテイイデース。』と。」
「『ウチノ会社ハ、コレカラ実力主義デ行キマース。アナタハ戦力外デース。』そして、
荷物をまとめさせられて会社から追い出されたんだ。」ナビヘイは溢れ出る涙をこらえき
れなかった。「すまん、母さん、ザサエ、ダラちゃん。これからわしはイゾノ家のお荷物
だ。」「何言ってるの、父さん。まだ蓄えもあるし、当分は大丈夫よ。その間ゆっくり次
の仕事を探せばいいじゃないの。」とザサエ。「そうですよ、父さん、まだ、マズオさん
だっているじゃないですか。」とブネ。「そうでしゅ。おじいちゃんはお荷物なんかじゃ
ないでしゅ。」とダラちゃん。「みんな、ありがとう・・」感極まって、ナビヘイはうっ
うっと泣いた。しかし、ダラちゃんは既に金づるではなくなったナビヘイにきっぱりと
見切りをつけていたのである。

「トリアエズ、なびへいノ会社ヲ乗ッ取ッテ奴ヲりすとらシテオキマシタ。」ととある事
務所の中である男が一人の少年に言った。「ごくろう。」と少年が答えた。「本当ニヨカッ
タノデスカ?アナタノ家族ヲりすとらスルナンテ。」と男。「なあに、構わないさ。彼ら
が本当に恐怖を味わうのはこれからだよ。これまで僕にしてきたことを後悔させるのさ。
ふっふっふ。」とその坊主頭の少年は男の方を向いて不敵に笑った。

つづく

投稿者 nekoyama : 06:10 PM