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January 21, 2003
超長編大河小説 リアリスティックザサエさん その4
つまるところ人間は愛するものしか守ろうとしない。理解できるものしか愛そ
うとしない。そして、知っているものしか理解しようとしない。(アリストテレス)
やあ、僕ねこ山。
タマはすでにイゾノ家にはいないのだが、信頼できる筋を通じて情
報を仕入れているらしく今日も僕にイゾノ家の事情をメールで伝え
てきた。タマのメールによればイゾノ家ではなかなかすさまじいこ
とが起こっているらしい。
ナビヘイがリストラされてからすでに3ヶ月が経っていた。その間、
ナビヘイはハ○―ワークに行くふりをしながら競馬場や競艇に通っ
ていた。そして無目的に有り金をつぎ込み3ヶ月でおよそ50万円を
すっていた。そして、この日もナビヘイは一日で3万円をすってし
まいとぼとぼと家へ向かった。
「ただいま。」ナビヘイが何食わぬ顔で玄関を開けた。しかし返事
はなかった。「ただいま!」と今度はやや大きな声でナビヘイは言
った。「お、お帰りなさい。」と慌てた様子でブネが奥から出てきた。
「何をしてたんだ。わしが帰ってきたのも分からなかったのか?」
ナビヘイは少しイライラしながら言った。「え、ええ、ちょっと台
所にいたものですから。」と言いながらブネの目は泳いでいた。「ま
あいい。夕飯はできているのか?」とナビヘイはブネに聞いた。「あ、
あのそれが…」「なんだ?」とナビヘイ。「ご飯の前に少しお話があ
るんですけど。」とブネはナビヘイに言った。「なんの話だ?」をナ
ビヘイはぞんざいに答えた。「え、ええ、あの話と言うのは…」ブネ
は消え入りそうな声で言った。「だからなんなんだ!」とナビヘイは
イライラして答えた。
「お父さん、今日はどこへ行ってらしたんですか?」とブネがおど
おどしながらナビヘイにたずねた。「今日?今日はハロ○ワークに
行っていたに決まっているじゃないか。」とナビヘイは答えた。「じ
ゃあ、昨日は?」とブネ。「昨日も同じだ。」とナビヘイ。「じゃあ、
おとといは?」とブネ。「何度同じことを言わせるんだ!○ロー
ワークだと言っとろうが!」とナビヘイは怒鳴った。
「お父さん、あのですね…」とブネ。「なんだ!」とナビヘイ。「私、
今日用事があってお父さんを呼び出してもらおうと思ってハロー
ワー○に電話したんです。」とブネがまた小さな声で言った。「そ
したら、そんな人は来ていないってハロー○―クの人が…」「な
に?」とナビヘイがブネの顔を睨んだ。「どうしてお前はそんなこ
とをしたんだ!」とナビヘイがブネに向かって怒鳴った。「どうし
てって、お父さんに用事があって…」とブネが言いかけたその時
であった。「うるさい!」とナビヘイはブネの左頬を平手で打った。
「痛っ!」とブネは壁に叩きつけられた。「お前というやつはどう
して夫の行動をこそこそと探るような真似をするんだ!」とナビ
ヘイは壁に寄りかかったブネのボディに左フックを打ち込んだ。
「うぐっ!」と言ってブネはそのまま廊下に倒れこんだ。そしてう
つぶせになったまま「うう…」と声にならない声を出していた。「ま
ったくお前というやつは!」すでに激昂していたナビヘイは廊下で
丸くなっているブネの横腹を右足で蹴り上げた。「んがっ!」といっ
てブネは廊下に嘔吐した。そしてぜいぜい言っているブネの横腹を
ナビヘイはさらに蹴り上げた。「ぐっ!」と言ってブネはさらに嘔
吐した。その吐しゃ物の臭いと怒鳴り声に気づいたザサエが奥から
出てきた。「母さん!」と言ってザサエはブネを覆うように抱きつ
いた。「父さん!一体何してるの!母さんに暴力を振るうなんて!」
その声でナビヘイは我に帰った。「母さん!大丈夫!」とザサエは
ブネの体をゆすった。しかしすでにブネの意識はなく、口から吐
しゃ物を吐き出しながら痙攣していた。「わしは、わしは…」そう
いってナビヘイは玄関からすでに暗くなった外へ飛び出していった。
「救急車よ!ワガメ!救急車を呼んで!」ザサエの声が家を飛び
出したナビヘイの耳にかすかに聞こえた。
そしてその日の夜、ダークグレーのスーツを着た中年の男が駅の
横のガード下のおでん屋ののれんをくぐった。「えらっしゃい!」
と威勢のいい声がおでんの湯気の奥から聞こえてきた。そして、
中年の男はスーツの上着を脱ぐと先に来て焼酎を飲んでいた坊主
頭の男の隣に座り、「燻製卵と大根ね。あと、ビールを一本もらお
うか。」と言った。そして、隣の坊主頭の男に、「あんたの言うと
おり、イゾノ家に電話してナビヘイに連絡を取りたいので居場所
を教えてくれと聞いてみたよ。」中年の男がそう言うと、坊主頭
の男は「上出来だ。」と言って、中年の男のグラスにビールを注
いだ。そして、「もうそろそろだな。」と言ってくっくっくっと笑
った。「何がもうそろそろなんだい?」と中年の男が聞き返すと、
坊主頭の男は、「いや、何でもないんだ。」と言ってコップの焼酎
を飲み干し、トレンチコートを羽織り、そのポケットから札束を
取り出して、中年の男の前にそっとおいた。そして「少ないけれ
ど取っておいてくれ。それからここは僕が払うよ。」といった。中
年の男は「こんなにもらっていいのかい?」と驚いた顔で聞いた。
「いいんだよ。これでも足りないぐらいだ。」と坊主頭の男は言い、
またくっくっくっと笑った。そして、おでん屋の主人に勘定を済
ませると、「さあ、行こうか。」と言って、トレンチコートのベル
トを締め、そばにいた白い猫と一緒におでん屋を出て行った。お
でん屋の外にはすでに冬の風が吹き始めていた。
つづく
投稿者 nekoyama : January 21, 2003 06:20 PM