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March 07, 2003

超長編大河小説 リアリスティックザサエさん その6

年をとればとるだけ大人になると思っていた。そうして大人になれば世の中は
ぐんと秩序だってくるのだろうと。(江國香織:「流しの下の骨」)

やあ、僕ねこ山。
イゾノ家が夜逃げを決行した後も追跡調査を続けたタマからの情報
をここに提供してみようと思う。

ガツオ、ナビヘイが失踪した後、追い討ちをかけるようにザサエの
多重債務が発覚したイゾノ家がブネの提案で着の身着のまま夜逃げ
をしたところまでは伝えた。その後イゾノ家(ブネ、ザサエ、マズ
オ、ワガメ、ダラちゃんそしてタマ)はイゾノ家の本来の地元であ
る福岡市内のとある3DKの一戸建ての借家に居を落ち着けていた。
実はこの借家は僕の家からそう遠くないところにあるのだが、詳細
を語ると「ねこ山日記」の読者から090金融の取立て担当者に情報
が流れてイゾノ家が危機的状況に陥るので、ここには詳しく書かな
いことにする。

夜逃げからすでに1ヶ月が経とうとしていた。マズオは東京の会社
を退職し、地元のしょぼい会社で経理担当として安月給でこき使わ
れていた。そしてやはり会社のアルバイトの女性と逢引を重ねるよ
うになっていた。ワガメは近くの小学校へ転校届を出して通い始め、
ぼちぼち友達もでき始めていて、これもやはり友達に紹介された中
年のおやじと一緒に遊んで小遣いを定期的にもらっていた。ザサエ
は見知らぬ土地に来たのをいいことに家族の目を盗んで再び090金
融から借金をこしらえ始め、これらの闇金のいいカモになりつつあ
った。そうした短絡的方法でこしらえた金を湯水のように使い、ダ
ラちゃんを連れて毎日天神へ買い物に出かけるのであった。

その日もみんながそれぞれ出かけた後、一人になったブネはやおら
台所へ行き、流しの下に隠しておいた日本酒を取り出してグラスに
ついで一気に飲み干した。最初はコップに4分の1ほどの調理酒を
3時間ぐらいかけて飲んでいたのであるが、最近では3日に一升のペ
ースで日本酒を消費していた。しかも、配達の営業にきた近所の酒
屋から様々な種類のアルコールを買っては飲んでしまい、その空ビ
ンも巧妙に始末していた。

「ちわーっ、ミガワヤでーす!」と今日も元気のいい声が聞こえ、
勝手口からいつもの酒屋の配達の青年ザブちゃんが顔を出した。時
刻は10時半になろうとしていた。「今日は何に致しましょう?」と
屈託のない顔でブネの前にズラリといろんな種類のビンを並べた。
日本酒はもちろん、ウィスキー、バーボン、テキーラ、ラム、ジン、
ウォッカ、ワイン等ありとあらゆるアルコール類がブネの前に並べ
られた。「そうねえ、今日はこれをもらいましょうか。」といってブ
ネはウォッカを手に取った。ここ一ヶ月毎日大量のアルコールを摂
取し続けているブネは生半可なアルコール度数では酔わなくなって
しまっていたのである。「ありがとうございます!じゃあ、今月のお
代につけときますんで。」と言って、メモに「イゾノさん、ウォッカ
一本」と書き加えた。「毎度ありー!」と威勢良くミガワヤのザブち
ゃんはバイクに乗って去っていった。ブネは早速ウォッカのふたを
開け、それをグラスに半分ほどついで一気に飲み干した。

その日の夕方、中洲のとあるバーで坊主頭の男が静かにバーボンを
飲んでいた。そこへ一日の仕事を終えたミガワヤのザブちゃんがや
ってきて、その男の隣に腰をおろした。そしてウィスキーの水割り
を注文すると、「こんなもんでいいんスか?」と坊主頭の男に尋ねた。
「ああ、上出来だよ。」と坊主頭。そして懐から財布を取り出して、
その中から福沢諭吉を10枚ほどカウンターの上においた。「少ない
けれどとっておいてくれ。」と坊主頭の男が言うと、「ええっ、こん
なにもらっていいんスか?」とザブちゃんは驚いた顔で言った。「あ
あ、君がやってくれた仕事を考えると安いもんだよ。」と坊主頭の男。
「気にせずにとっといてくれ。」と言って2人分の勘定を済ませると
タバコに火をつけてから「じゃあまた連絡するよ。」と言ってバーか
ら出て行った。「毎度ありー!」とザブちゃんが男の後ろから聞こえ
た。男が外に出ると、客引きのチンピラやうだつのあがらないサラリ
ーマン、そして田舎から出てきたばかりの濃い化粧をした若い女性
などが各々の欲望のためにうごめいており、九州随一の繁華街はま
だまだ眠る様子はなかった。

投稿者 nekoyama : March 7, 2003 06:29 PM