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June 07, 2003

パラレルザサエさん

火事になったらレンブラントの絵よりも猫を救う。芸術よりも人生を。
(ジャコメッティ)

ダンプはクラクションを鳴らしながらブネまであと数メートルのところ
まで迫っていた。キキーッ!ダンプはブレーキをかけたが間に合う距離
ではない。その音を聞いてブネはようやく正気に戻った。そして死を覚
悟した瞬間、道路の反対側から人影が飛び出してきて、ブネを突き飛ば
した。「バカヤロー!気をつけやがれ!」ダンプの運転手は捨てゼリフを
吐きながら去っていった。ブネを間一髪で救った人物は肩で息をしながら、
「危ないところだったね。」と言った。「あ、あんたは・・・。」ブネはそ
の人物の顔を見た途端、涙があふれてきた。「許しておくれ!」とブネは
泣きながら言った。「何言ってるんだい。もちろんじゃないか。」その人物
は笑顔で言った。

ザサエは手すりを乗り越えたものの飛び降りる勇気が今ひとつ持てない
でいた。これまでの人生を邂逅しながら目を閉じたとき、突風が吹き、
ザサエの体が一瞬宙に舞った。その時、ビルの脇の非常階段から駆け上
ってきた人影が左手でしっかりとザサエの手をつかみ、そして右手で屋
上の手すりをしっかりとつかんだ。間一髪であった。「危ないところだっ
たね。姉さん。」その人物は言った。そしてザサエを屋上に引き上げると、
「けがはなかったかい、姉さん?」と言った。その声を聞いた途端ザサエ
はその人物の面前にひざまづき、大声で泣き始めた。「許してちょうだい!
許してちょうだい!」とザサエはその人物に何度も謝った。「もちろんさ。
家族だもの。」その人物は笑顔で答えた。

ワガメは遮断機を乗り越えて線路の真中に立っていた。もう電車はあと
100メートルというところまで近づいていた。運転手もワガメには気づい
たがこの距離では急停車は不可能だ。キキーッ!!電車は車輪から火花
を飛び散らせながらワガメに猛スピードで近づいていた。電車がワガメ
まであと数十メートルまで近づき、ワガメが死を覚悟したそのとき、遮
断機をかいくぐって人影が飛び出し、ワガメの体をつかんで線路の反対
側へワガメもろとも転がった。危機一髪であった。「ふうー。危ないとこ
ろだった。」ワガメは倒れたまま、呆然としていたが、その人物の顔を見
るとこらえきれず泣き出してしまった。「うわーん!!怖かったよう!」
ワガメはその人物に抱きつくと大声で泣いた。「よしよし。もう大丈夫だ。」
その人物は笑顔で言った。

マズオが柵を乗り越えていままさにビルの屋上から飛び降りようとした
その時、屋上の貯水槽の影から飛び出した人影がマズオの腕をつかんだ。
間一髪でマズオは落下せずにすんだ。「危ないところだったね。マズオ兄
さん。」その人物は言った。「き、君は・・・。」マズオはその人物の顔を
見ると思わず涙をこぼした。そしてその涙はマズオの頬を伝って流れ、風
に吹かれてビルの谷間に落ちていった。その人物はマズオをビルの屋上に
引き上げると言った。「簡単に死んじゃだめだよ。」マズオはこらえきれず
うっうっと嗚咽した。「ゆ、許してくれ。僕は君に何もしてあげられなかっ
たのに。」「何言ってるんだい。いつも僕をかばってくれたじゃないか。」そ
の人物は笑顔で答えた。

ナビヘイが橋の欄干から飛び降りようとしたとき、横から人影がすばや
く飛び出してナビヘイの体をつかんだ。「危ない!!」ナビヘイは間一髪
で濁流に飲み込まれずにすんだ。そしてその人物橋の上の歩道にナビヘ
イを引き戻すとナビヘイに向かって言った。「危ないところだったね。父
さん。」ナビヘイはその人物の声を聞き、顔を見ると涙があふれ出るのを
とめることが出来なかった。「わしを・・・許してくれるのか?」ナビヘ
イは涙でぐしゃぐしゃになりながら言った。「もちろんじゃないか。」そ
の人物は笑顔で答えた。ナビヘイは自分を助けてくれた人物がかつて家
族ぐるみで虐待していた実の息子と分かった途端、大声で泣き始めた。
「あんなにひどいことをしたのに・・・」ナビヘイは溢れ出る涙を止め
ることができなかった。「許してくれ。ガツオ!」ナビヘイは哀願するよ
うに言った。「何言ってるんだい。父さん。家族じゃないか。」ガツオは屈
託のない笑顔で答えた。

投稿者 nekoyama : June 7, 2003 06:38 PM