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July 28, 2003

逃亡猫

欠けない満月がないように、トラブルのない生活もない。
(村上春樹:「うずまき猫の見つけ方」)

リニャード・キンブル。もうすぐ2歳になるオス猫である。職業は作家。
ある晩、彼は夜遅く自宅に帰るとうちの中の様子がおかしいのに気が付
いた。そして台所の電気を点けてみるとそこには食べ散らかしたちくわ
の破片が無造作に散らばっていた。物音がして彼が振り返ると彼は走り
去る尻尾の長い一匹猫の後姿を目にした。彼はその猫を捕まえようとし
て走り出し、逃げようとする猫の左足に噛み付いた。二匹の猫は取っ組
み合いになり、リニャードは逆に泥棒猫に尻尾を噛みつかれて取り逃がし
てしまった。しかし、その数秒間の格闘の中で彼は目にしていたのである。
その猫の左耳は先っぽが少し切れていた。

彼はすぐさま警察に電話をする。10分後、連絡を受けた交番から警察が
駆けつけた。彼は事情を説明するが、左耳の切れたねこの足跡は見つから
ない。あるのはリニャードの足跡だけ。警官は彼の話に疑問を抱く。そし
て状況証拠から彼はちくわ泥棒の容疑で逮捕されてしまった。

リニャードが護送車で拘置所へ運ばれる途中、折からの雨により視界を
確保できない運転手は運転を誤って車ごと道路わきの側溝に落ちてしま
う。その衝撃でリニャードの首輪が外れ、彼は一瞬の隙をついて護送車
から逃げ出した。リニャードは一目散に森の中へ逃げ込んだ。はるか後
方で警官達の声が聞こえた。リニャードは力を振り絞って逃げられると
ころまで逃げていった。すぐに厳戒態勢が敷かれ、翌日の朝にはすでに
彼の手配書が全国にばら撒かれた。

「名前:リニャード・キンブル 職業:作家 現在逃走中 容疑:ちくわ
泥棒 情報を寄せられた方には懸賞金としてねこ缶20缶を差し上げます。」

リニャードはそれから毎日巧みに警察の目をかわしながら、あの左耳の切
れたねこを追って調査を続けている。もちろんちくわ泥棒の真犯人(猫)
を捕まえ、自分の無実を証明するためである。真犯人(猫)が捕まるまで
彼には安息はない。リニャード・キンブル。もうすぐ2歳、オス、職業作家。
彼の逃亡は今日も続く。

投稿者 nekoyama : July 28, 2003 09:10 PM